あんしんを、あたらしく。~一般社団法人安心R住宅協議会~

住宅ストックを取り巻く現状

日本の住宅市場に関する政策は、住宅難解消や景気対策など、目的は異なっても常に「新築住宅」を対象とした供給と取得が繰り返されてきています。
戦後の住宅不足状態は数の上では1968年には解消されていますが、その後も50年にわたって新築住宅の供給を重視した施策が継続されています。
その間、世帯数の増加を上回るペースで住宅が増え続けており、「空き家問題」は既に社会的な規模にまで拡大し、2014年7月29日に総務省から公表された『住宅・土地統計調査』(2013年10月1日現在)の速報集計によれば、空き家率は13.5%に達しています。
2001年には、住宅施策の上で「ストック重視」の方向性が打ち出されていますが、その後もなかなか現実の制度として具現化していません。
しかし、少子高齢化、財政問題、環境・社会問題、人口構造の変化、価値観の多様性など、大きな変化が住宅市場の外側で起きている現状においてフロー重視の市場を継続することはいよいよ困難となり、ここ数年でさまざまな方針、ガイドライン、政策などが矢継ぎ早にまとめられて「住宅ストック活用型社会」への移行が明確になってきています。
まさに現在は”転換の真っ只中”といえる状況ですが、その転換を推進していく上で不可欠となるのが「ストック住宅(既存住宅)の流通を促進する仕組み」の構築です。
日本の住宅流通は新築住宅を中心に構成されてきましたので、既存住宅については税制、金融、商習慣、商取引の成熟度、法的整備などが十分ではなく、社会的経験値がまだまだ乏しいのが実情です。
このような中で宅地建物取引業法の改正により、2018年4月からスタートする「既存住宅取引におけるインスペクション(建物状況調査)の説明の義務化」は、「住宅ストック活用型社会」への移行がいよいよ本格的に始まることを意味する大きな転換点となります。
2018年以降、これまでの商習慣から抜け出せず、消費者への「情報開示」の重要性を理解できない事業者は、まさに情報流通が前提となっているインターネット社会の中で急激に減少していくことになるでしょう。

良質な住宅ストックとは?

「住宅ストック活用型社会」が進行していく中では、「良質な既存住宅のストック」が重要になってきます。
しかしながら、現在の社会的経験値の乏しい市場の中で流通している既存住宅が全て悪質なのかと言えば、決してそうではありません。
それでは、「良質な既存住宅」とは、どのように定義づけられるべきなのでしょうか?
良質な既存住宅が正しく定義され、その流通が促進されるためには、「公平公正な認定基準が設定」され、その「情報が公開」されるとともに、良質な住宅であることに対する「適正な評価(インセンティブ)」が付与されることが必要です。
そうでなければ、全ての既存住宅が「立地」「築年数」「相場」などのみによって評価され、その後の生活の安心・安全性を担保する肝心な部分が評価されないことになってしまいます。
そこで当協議会においては、良質な既存住宅についてのガイドラインを策定し、「安心診断」「保証・保険・サービス」「情報公開」の3領域に基準を設けて制度化していきます。
消費者の安心・安全を担保した良質な住宅ストックを増やすことこそが、既存住宅流通の促進につながっていくと考えています。

住宅ストック流通に関する取り組み/事業紹介

・良質住宅ストック形成のための市場環境整備促進事業
・消費者の相談体制の整備事業
・小規模不動産特定共同事業を活用した遊休不動産等の再生事業
・地域の空き家・空き地等の利活用等に関する事業
・不動産特化型地域共創ファンドへの出資事業

健全な住宅ストック市場の実現に向けて

住宅の適切な維持管理は、住まいのライフサイクルコストの低減や住宅の資産価値の維持・向上につながるとともに、良質な住宅ストックの流通を促進することになります。
2011年3月15日に閣議決定された『住生活基本計画(全国計画)』では、これまでの、住宅を「作っては壊す」社会から、「いいものを作って、きちんと手入れをして、長く大切に使う」社会への転換を目指して、住宅の質を向上させるとともに、適切に維持管理された住宅が市場において循環利用される環境の整備を重視した「ストック重視の施策展開」が目標の一つに掲げられ、関連施策が推進されてきました。
これを受けて、2016年3月18日に5年ぶりに『住生活基本計画(全国計画)』が見直され、閣議決定されました。
その内容は、2016年度から2025年度までの10年間における住宅政策の指針となるもので、大きく3つの視点から分けることができ、8つの目標が掲げられています。

1.居住者からの視点

・【目標1】結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現 
・【目標2】高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現
・【目標3】住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保

2.住宅ストックからの視点

・【目標4】住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築
・【目標5】建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新
・【目標6】急増する空き家の活用・除却の推進

3.産業・地域からの視点

・【目標7】強い経済の実現に貢献する住生活産業の成長
・【目標8】住宅地の魅力の維持・向上

日本の住宅政策や住宅市場のあり方は少子高齢化や人口減少などを背景に大きな転換を迫られており、その構造改革が急務となっています。 しかしながら、従前の計画に基づく政策の進捗は十分ではなく、新たな『生活基本計画(全国計画)』が、実効性を伴う住宅政策の指針として機能することが期待されます。
以下、本『基本計画』に掲げられている「8つの目標」の中から、着目すべきポイントを確認します。

【目標1】結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現

安心して子どもを産み育てたいという想いを実現できるよう、若年世帯・子育て世帯が望む住宅を選択・確保できるようにすること、世代間で助け合いながら子育てできる三世代同居や近居を促進すること、地域ぐるみで子どもを育む環境を整備することなどが掲げられています。

【目標2】高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現

高齢者が安全に安心して生涯を送れる住宅の改善・供給を行ない、日常生活圏であらゆるサービスが利用できる環境の実現を目指します。
具体的には、「新たな高齢者向け住宅のガイドライン」の策定、「サービス付き高齢者向け住宅」等の供給促進、「生涯活躍のまち」の形成、高齢者世帯や子育て世帯の支援をする地域拠点の形成、リバースモーゲージの普及などが掲げられています。

【目標3】住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保

住宅確保要配慮者(低額所得者、高齢者、障害者、ひとり親・多子世帯などの子育て世帯、被生活保護者、外国人など)が安心して暮らせる住宅を確保できるよう、空き家活用など住宅セーフティネット機能を強化するとともに、公的賃貸住宅団地の建替えなどの適切な実施、施設などの地域の拠点形成による居住環境の再生などが掲げられています。

【目標4】住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築

「住宅すごろく」(住宅の取得がゴール)なのではなく、維持管理やリフォームを実施して資産価値を保ち、その価値が適切に評価された良質な住宅ストックが次世代へと継承されていく流れを創出します。
具体的には、インスペクション(建物状況調査)による質の確保・向上、既存住宅の魅力の向上、既存住宅の価値向上を反映した評価方法の普及などが掲げられています。

【目標5】建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新

2025年の成果指標として、いくつかの数値目標が掲げられています。
①既存住宅流通の市場規模を8兆円とすること(2013年:4兆円)
②リフォームの市場規模を12兆円とすること(2013年:7兆円)
③既存住宅流通量に占める既存住宅売買瑕疵保険に加入した住宅の割合を20%にすること(2014年:5%)
④築住宅における認定長期優良住宅の割合を20%にすること(2014年:11.3%)
⑤耐震性のない住宅ストックをおおむね解消すること(2013年:18%)
⑥省エネ基準を満たす住宅ストックの割合を20%にすること(2013年:6%)

①②を合わせた市場規模目標は20兆円となっています。
これまでは「住宅ストック活用型社会」への転換が遅れ、市場規模も十分なものではありませんでした。
しかしながら、インスペクションの活用推進をはじめとした既存住宅市場の環境整備、リフォームによる住宅の安全性や質の向上、住宅ストックビジネスの多様化など、その転換に向けた動きは着実に進んでおり、今後10年間の既存住宅流通・リフォーム市場の活性化は大きな進展が期待されています。

【目標6】 急増する空き家の活用・除却の推進

『住生活基本計画(全国計画)』では、初めて空き家の数についての数値目標が掲げられ、2025年には「その他の空き家」を400万戸程度にまでおさえようとする内容になっています。
総務省が実施した『住宅・土地統計調査』では、2013年時点の空き家数は約820万戸とされていますが、このうち特に問題視されているのが、賃貸又は売却用の空き家や別荘などの二次的住宅を除いた「その他の空き家」です。
2003年時点で212万戸だった「その他の空き家」は、10年間で1.5倍の318万戸までに増加しており、このまま何の対策もとらなければ2023年には500万戸にまで膨れ上がるとも言われています。
こうした空き家の増加を抑制するための基本施策は大きく2つに分類され、①生活環境に悪影響を及ぼすものについては「計画的な解体・除去の促進」、②それ以外のものについては「新たな住宅循環システムの構築」「空き家を活用した地方移住、二地域居住等の促進」「古民家等の再生・他用途活用」「他用途転換の促進」などが掲げられています。
しかしながら、空き家対策推進特別措置法に規定される「特定空き家」などの解体・除去が大幅に増えることは考えにくく、所有者個人による解体・除去がどこまで増えるかも未知数であり、仮にそれらが進んだとしても、今度は低・未利用地の増加など、新たな問題につながることも予想されます。
また、空き家の流通を促進することで、「その他の空き家」が減少する代わりに「賃貸又は売却用の空き家」が増加することや、物件のダブつきにより流通価格が下落することも考えられます。
さらには、日本の世帯数は2020年頃から減少に転ずる見込みであり、「その他の空き家」の増加を抑制することだけでは根本的な解決に結びつかないことは明白です。
5年後(2021年)に行われる予定の『住生活基本計画(全国計画)』の見直しにおいて、さらなる議論が期待されます。

【目標7】強い経済の実現に貢献する住生活産業の成長

住宅関連産業の担い手を確保・育成し、地域経済を活性化するとともに、住生活に関連する新ビジネスを成長させ、居住者の利便性の向上を目指します。
具体的には、地域材を用いた良質な木造住宅の供給促進と、それを担う設計者・技術者の育成、住生活関連の新たなビジネス市場の創出・拡大の促進などが掲げられています。

【目標8】住宅地の魅力の維持・向上

個々の住宅だけでなく、居住環境やコミュニティをより豊かなものにすること、自然災害等に対する防災・減災対策を推進し、居住者の安全性の確保・向上を促進することなどを通じて、どの世代も安心して暮らせる住宅地・居住環境の魅力の維持・向上を目指します。具体的には、住宅団地の再生促進とその機会を捉えた高齢者世帯・子育て世帯等に対する支援、密集市街地の改善整備やハザードマップの積極的な情報提供などによる安全性の向上などが掲げられています。

住宅ストックについて