あんしんを、あたらしく。~一般社団法人安心R住宅協議会~

2020.11.05

【コラム】宅建業法改正による水害リスクの説明義務化をわかりやすく解説!

宅建業法改正による水害リスクの説明義務化をわかりやすく解説!

こんにちは。安心R住宅推進協議会の三津川 真紀です。

近年、地球温暖化と気候変動の影響で、毎年のように記録的な台風や集中豪雨が発生し、全国各地で大規模水災害による甚大な被害が多発しています。8月9月の相談事例でも立て続けに関連する内容をご紹介させていただきましたが、例年8月の終わり頃から9月、10月にかけては特に被害の出やすい時期です。東日本大震災以降の約10年間で、国民の防災意識は各段に高まりました。日本は災害大国といわれていますので、不動産取引時においても、災害リスクに関する情報は意思決定を行なう上で大変重要な要素となっています。
こうした背景を踏まえ国土交通省は、今般、宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」)施行規則の一部を改正し、重要事項説明の対象項目に水害リスクに関する情報を追加しました。そこで今回は、宅建業法改正によって義務化された水害リスクの説明について、その内容を整理します。

 

宅建業法における重要事項説明とは

宅建業法においては、宅地または建物の購入者等に不測の損害が生じることを防止するため、宅地建物取引業者(以下、「宅建業者」)に対して、「重要事項説明」として、契約を締結するかどうかの判断に多大な影響を及ぼす重要な事項について、事前に購入者等に対して説明することを義務づけています。これまで、土砂災害や津波災害のリスクについては重要事項説明の対象とされ、取引の対象となる宅地または建物が土砂災害警戒区域内や津波災害警戒区域内にあるときはその旨を説明することとされていましたが、水害リスクについては定めがありませんでした。今般の改正によって、この重要事項説明の項目に「水害リスクに関する情報」が追加されることとなりました。
追加された内容は、水防法の規定にもとづき作成された水害ハザードマップ(取引の対象となる宅地または建物のある市町村が作成、提供するもの)における対象物件の所在地です。宅建業者は、宅地建物取引士をして、購入者等に対し、売買契約が成立するまでの間に、取得しようとする宅地または建物について、この水害ハザードマップを提示して、対象物件の所在地を示すことが義務付けられました。
改正に合わせて、購入者等に対する具体的な説明方法等を明確化するために、宅建業法のガイドライン(解釈・運用の考え方)にも、以下の項目が追加されました。
・水防法にもとづき作成された水害(洪水・雨水出水・高潮)ハザードマップを提示し、対象物件の概ねの位置を示すこと
・市町村が配布する印刷物または市町村のホームページに掲載されているものを印刷したものであって、入手可能な最新のものを使うこと
・ハザードマップ上に記載された避難所について、あわせてその位置を示すことが望ましいこと
・対象物件が浸水想定区域に該当しないことをもって、水害リスクがないと相手方が誤認することのないよう配慮すること

本改正は、対象となる不動産取引(宅地建物の売買・交換・貸借)について、8月28日より施行されています。

 

水害ハザードマップとは

「ハザードマップ」とは、津波、地震、火山、風水害等の自然災害による被害を予測し、その被害の場所(範囲)、程度、頻度などを地図上に示したものです。必要に応じて、予測される災害の発生地点や避難経路、避難場所などの防災情報もまとめて閲覧することができます。今般の改正によって義務化された水害リスクの説明にあたり使用する、水防法の規定にもとづき作成された水害ハザードマップ(取引の対象となる宅地または建物のある市町村が作成、提供するもの)については、国土交通省が運営している「ハザードマップポータルサイト」にて確認いただくと分かりやすいかと思います。全国の市区町村が作成している各種ハザードマップを、インターネット上で一元的に検索・閲覧できるもので、一般公開されています。見方、使い方については、8月の相談事例で紹介しています。

ハザードマップポータルサイト
https://disaportal.gsi.go.jp/

但し、重要事項説明時においては、パソコンやタブレット上で水害ハザードマップを表示するのみでは足りず、市町村が配布する印刷物または市町村のホームページに掲載されているものを印刷して提示する必要がありますので注意して下さい。ITを活用した重要事項説明(IT重説)時においても同様に、事前に購入者等に送付する必要があります。

水防法にもとづく水害ハザードマップは、洪水、雨水出水(内水)、高潮の3種類のハザードマップを指します。

洪水ハザードマップ

洪水は、台風や豪雨によって起こる堤防の決壊を指します。洪水ハザードマップは、洪水浸水想定区域図等をもとに、破堤、はん濫等の浸水情報および避難に関する情報をまとめたものです。記載項目には、すべての洪水ハザードマップに原則として記載することが必要な「共通項目」(避難情報の伝達方法、気象情報等の在りか、浸水想定区域、避難場所、被害の形態、避難時危険箇所)と、市町村ごとに記載するかどうかを判断する「地域項目」(避難活用情報、災害学習情報)があります。

雨水出水(内水)ハザードマップ

雨水出水(内水)は、堤防の決壊とは異なり、集中豪雨などによって雨水などを川や下水道に排水しきれず溢れてしまう状態を指します。河川の増水によって逆流する場合も含みます。雨水出水(内水)ハザードマップは、雨水出水浸水想定区域図等をもとに、浸水の発生が想定される区域や実際に浸水が発生した区域の浸水に関する情報、避難場所、洪水予報・避難情報の伝達方法等の避難に関する情報をまとめたものです。

高潮ハザードマップ

高潮は、台風などに代表される低気圧や強風により発生するものを指します。高潮ハザードマップは、高潮浸水想定区域図等をもとに、高潮による被害が想定される区域とその程度を地図に示し、必要に応じて避難場所・避難経路等の防災関連情報をまとめたものです。

尚、取引の対象となる宅地または建物のある市町村内に、洪水浸水想定区域、雨水出水浸水想定区域、高潮浸水想定区域が存在しない場合は、該当するハザードマップが作成されていない可能性がありますので、確認が必要です。市町村に照会した結果、各ハザードマップの全部または一部が作成されていないこと、あるいは印刷物の配布もしくはホームページ等への掲載等がされていないことを確認した場合は、購入者等に対して、提示すべきハザードマップがないことを説明する必要があります。

 

説明義務の範囲と注意点

今般の改正によって義務化された水害リスクの説明の範囲は、水害ハザードマップに取引の対象となる宅地または建物の所在地が含まれている場合に、購入者等に対して、対象物件の概ねの位置を示すことです。つまり、水害ハザードマップの見方や記載されている内容までの説明を求めるものではありません。もちろん、水害ハザードマップが、地域の水害リスクと水害時の避難に関する情報を住民等に提供するツールであり、主に水害時の住民避難に活用されることを目的として作成されているものである以上、詳細な説明が求められるべきですが、必ずしも説明する宅地建物取引士が内容について理解しているとは限りません。また、水害ハザードマップ自体を作成していない市町村もあることから、購入者等自身が事前に必要な情報を整理しておくようにしましょう。

また、ガイドラインにも記載がありますが、対象物件が浸水想定区域に該当しないことをもって、水害リスクがないことを保証するものではありません。水害ハザードマップに記載されている内容は今後変更される場合があることに注意しましょう。
あわせて、水害ハザードマップで想定されていなかった水害が起こる可能性があることも忘れずにいて下さい。実際、8月に埼玉県さいたま市を襲ったゲリラ豪雨によって浸水被害を受けた住宅街は、さいたま市が公表していた水害ハザードマップ上で浸水の可能性は指摘されていませんでした。近年は予測の難しい災害が増えていますので、日頃より危機感を持って備えておくことが大切です。
今般の改正では地震に関する情報は含まれていませんが、地震リスクについても地震ハザードマップ(地震被害・危険度マップ)が公表されていますので、確認しておくと良いでしょう。

 

最後に

6月に、「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律」が成立しました。この法改正は、近年の頻発・激甚化する自然災害に対応するため、災害ハザードエリアにおける開発抑制や立地誘導等により、防災・減災対策の強化、安全なまちづくりの推進を目的としています。これにより、災害レッドゾーンにおける開発の原則禁止や浸水ハザードエリア等における開発許可の厳格化、あるいは移転が進むことになります。そして8月からの宅建業法改正による水害リスクの説明義務化によって、「住まいの安全」に対する意識はますます高まるでしょう。
これまでも災害リスクに関する情報は不動産取引時において意思決定を左右する重要な要素でしたが、今後は不動産の市場価格や担保価値にまで影響を及ぼすとの見方も出ています。災害リスクが高いエリアの物件は不動産取引時に価格の減額交渉につながるかもしれません。また、住宅ローンは不動産を担保とした長期ローンですから、将来リスクを勘案した金額しか借り入れができなくなるかもしれません。いずれにせよ、災害リスクは一層不動産の需要に影響を与えることになるでしょう。
現実に発生した浸水被害が水害ハザードマップとほぼ一致していることを鑑みると、これを活用して重要事項説明を行なうことは極めて合理的であり、取引の対象となる不動産がその地域のどのような位置にあるのかを把握することは、防災の観点からもとても重要なことです。不動産取引当事者の理解を促すためにも、判断材料とできるだけの十分な時間を確保して重要事項説明を行ない、形式的なものでなく、私たちの生命と住まいを守る改正となることを願います。