あんしんを、あたらしく。~一般社団法人安心R住宅協議会~

2020.10.08

【コラム】新型コロナは不動産投資と不動産融資にどんな影響をもたらしたか

新型コロナは不動産投資と不動産融資にどんな影響をもたらしたか

こんにちは。安心R住宅推進協議会の三津川 真紀です。

新型コロナウイルス(以下、「コロナ」)の感染拡大は、業界を問わず、多くの企業や職場に甚大かつさまざまな影響を及ぼしていますが、もちろん不動産業界も例外ではありません。国内の不動産を対象とした事業のみならず、海外渡航が制限されていることにより、国外の不動産を対象とした事業についても厳しい状況が続いています。そこで今回は、経済社会全体に不安をもたらしているコロナが、不動産投資と不動産融資にどのような影響を与えているのかについて整理します。

 

コロナが不動産投資に与えている影響

コロナ・ショックは株価の乱高下だけでなく、株式の配当や投資信託の分配金の減少にも影響を及ぼし、投資家にとっては不安な状況が続いています。そんな中、意外なことに、不動産投資はコロナの影響を受けにくいとして注目される傾向にあるようです。その理由は、不動産を「住まい」として捉えた場合、人が生きていく上で必要とするものだからです。生きている限りはどこかに住む必要がある以上、住まいへの投資は長期投資であり、また5月のコラムでもご紹介させていただきましたが、コロナ禍にあっても住まいに関連する救済措置は充実しているため、需要が下がりにくく、安定した収入が得られやすいことから、前向きな投資家心理につながっているものと予想されます。

コロナの拡大や長期化は、経済状況や将来への不安を高めましたが、一方で資産形成の重要性を感じさせることとなりました。在宅時間の増加に伴い、投資情報サイトへのアクセスが急増しているほか、特にこれまで投資や資産形成とは無縁だった若年層の証券口座開設数が堅調に伸びているそうです。コロナをきっかけに資産形成に関心を持ち、投資を始めたものの、大きく不安定化した市場の回復は先行き不透明な中にあって、不動産はその一時的な価格下落も買い時と捉えて投資対象として注目されています。

 以上をまとめると、不動産投資は、
1.需要が下がらない(収入が安定している)
2.価格の変動が少ない(価格が下がりにくく、下落幅が小さい)
ことから、投資対象の中でも不況に強いとされ、コロナの影響をむしろ追い風としているようです。国土交通省が9月29日に発表した「令和2年都道府県地価調査」によれば、7月1日時点の基準地価は全用途・全国平均の変動率が前年比マイナス0.6%と、2017年以来3年ぶりに下落に転じ、下落地点数の割合も60.1%と、2年ぶりに半数を超えました。特に住宅地はマイナス0.7%と下落幅を拡大させています。他市場同様、不動産市場も先行きの不透明感は地価にも表れていますが、上記理由により、一時的に価値が下がったとしても、賃料に大きな変動はないことから収入は安定しており、むしろコロナ禍で一定の入居ニーズが見込める物件が安く売りに出される可能性があることは、利回りの安定にもつながることから、不動産投資に対するネガティブな影響は抑えられているようです。

 そんなコロナ禍でも注目の不動産投資ですが、投資対象として人気が高いのは、やはり利便性や住環境等に優れた都心の物件です。5月の相談事例でもご紹介させていただきましたが、緊急事態宣言の発令以来、飲食店など接客業の方を中心に、勤務時間の大幅な削減や休業、あるいは解雇に伴う収入減により住宅ローンが払えなくなり、自宅を売却される方も出てきました。都心の物件に対する不動産投資を支えているのは、こうしたコロナの影響で手放された物件を「現金」で購入しようとする投資家です。中には、現金購入を条件に市場価格より安い金額で購入して、市場価格で転売し、多くの利益を得ている投資家もいるようです。
コロナの感染拡大に伴って、都市部を中心に急速にテレワーク(在宅勤務)が普及したことで、通勤をする必要がなくなり、場所を選ばずに仕事をすることが可能になりました。こうした中、若者を中心に地方移住への関心が高まっているといったニュースも目にしますが、都心離れ・郊外志向はあくまでも限定的で一時的な傾向であり、都心での暮らしは生活利便性などの高さゆえ、人気が衰えることはありません。むしろ5月に緊急事態宣言が解除されると、都心の不動産を購入、投資しようとする動きは活発化しました。テレワーク(在宅勤務)の普及による通勤の見直しは、都心以外での暮らしの選択肢を増やすと同時に、職住接近によって通勤時間の解消を叶える、より好立地な超都心の暮らしに、一部の高所得者層を誘導した形となったようです。
また、都心の物件であれば値崩れしにくいため、上述した「家賃収入」や「利回り」といったインカムゲイン(その不動産を保有している間に得られる利益)とともに、キャピタルゲイン(その不動産を売却する時に得られる利益)についても安定が見込めます。そもそも不動産は長期保有を前提としているため、不動産投資は株式投資に比べると投資性が低く、事業経営に近い視点で長期的に取り組む必要があることから、現時点の資産価値が下落傾向にあっても、将来の売却にはあまり影響しません。ハイリスクハイリターンを求める投資家にとっては異なる性質を持つ不動産投資ですが、堅実に収益を得たい投資家にとっては向いているかもしれません。

このように、コロナが不動産投資に与えている影響は意外にも前向きのようです。今月、不動産サービス大手のジョーンズラングラサール(JLL)が、2020年1~6月期の都市別の不動産直接投資総額ランキングで東京が世界首位になったことを発表しました。JLLは、「コロナ禍の影響が世界各国に及ぶ中、安全資産としての日本の不動産が選好されている。為替市場で見られるような『有事の日本買い』が不動産でも起きている」とコメントしています。日本の不動産に対する投資は、国内の投資家のみならず、国外の投資家にも注目されています。

 

コロナが不動産融資に与えている影響

金融庁は金融機関に対し、コロナ禍における対応について、債務の条件変更や新規融資など、事業者の実情に応じた万全の対応を要請し、事業者への資金繰り支援の促進を求めています。金融機関にはコロナの影響による融資相談が急増しており、相談体制等の充実・拡充に向けた見直しを余儀なくされている状況です。そのため、緊急性の高いコロナ融資の審査や手続きにも通常以上の時間を要している金融機関が少なくなく、一時的に受付を停止している金融機関もあるといいます。このような状況にあっては、不動産投資用などの通常融資にまで手が回らなくなっているというのが実情のようです。

そもそも不動産投資への融資は、不正融資や建築偽装、さらにはフラット35の不正利用などが相次ぎ、2018年以降、非常に厳しくなっていました。その上にコロナの影響を受けているため、現時点で不動産投資に金融機関の融資を利用するには手持ちの資金を増やすよりほかはなさそうです。一般的に不動産投資には安定した収入を得ているサラリーマンが向いているといわれますが、属性の高いサラリーマン投資家であっても、フルローンは厳しいのが現状です。今後、コロナが拡大、長期化すれば、家賃収入の減少(賃料相場の下落)や空室リスクの上昇が見込まれ、さらに融資が縮小する可能性があります。融資が縮小すれば不動産を購入できる人が限られ、価格相場の下落を引き起こし、担保評価の下落につながります。こうした最悪の循環も想定しておく必要があります。
コロナ・ショックはリーマン・ショックとは異なり、金融システムは安定しているため、コロナの収束とともにファイナンス機能も正常化するのではないかという考え方もありますが、アフターコロナでは物件の担保評価やその基準を見直す必要が出てくる可能性もあることから、金融機関の評価を意識した物件選びも大切でしょう。

一方、既存の不動産投資ローンについて、コロナの影響によるテナントの退去や家賃の支払い猶予、入居者の家賃滞納や家賃の値下げ要求によって、ローンの返済が困難となった場合は、コロナを起因とする条件変更であることから、一時的な元本の返済猶予や返済期限の延長などが承認されやすいようです。しかしながら、既往債務について条件変更等を行なった場合は、新規の融資はますます厳しくなるため、注意が必要です。

 どの金融機関にも共通していえることは、不動産投資に対する融資姿勢は厳しいものではあるものの、不動産融資は金融機関にとって重要な事業の一つであり、住宅ローンにいたっては個人向け貸し付けの大半を占めています。すべての融資が行なわれないのではなく、適切な融資が行なわれているのだと考えれば、適切な不動産投資であることが認められる要素を押さえることが重要です。

 

最後に

長引くコロナ禍でホテルやオフィス市場を中心に厳しい局面が懸念される中、東京都心の不動産は国内のみならず世界中の投資家の注目を集め、不動産投資額の世界首位となりました。株式投資をはじめ、金融商品全般の資産価格が下落傾向にある一方、不動産投資はそれらと投資商品としての性質を異にすることから、むしろ需要は高まりをみせ、コロナが不動産投資に与えている影響は極めて前向きであるといえます。特に利便性や住環境等に優れた都心の不動産は、①需要が下がらず、②価格の変動が少ないことから、インカムゲインが安定しており、同時に不動産投資が③長期投資を前提としていることで、キャピタルゲインに対するコロナの影響も限定的となるため、相対的優位性の高い投資商品となっているようです。
 日本の不動産投資に対する需要が高まり、国内外に投資家が増える中、金融機関の融資姿勢は依然として厳しい状況にあります。したがって現時点で不動産投資を始めるには、自己資金を増やすか現金購入を検討することになります。不動産投資における自己資金の目安は、一般的に物件価格の20~30%かつ300万円以上などといわれていますが、コロナ禍においてはより自己資金を求められることも想定しておいた方が良いでしょう。
収益性と安定性が期待できる都心の不動産を高い自己資金率で購入するとなれば、今後は既存住宅、特に東京23区内の中古のコンパクトマンションなどは、ますます人気が高まりそうです。