あんしんを、あたらしく。~一般社団法人安心R住宅協議会~

2020.08.10

【コラム】ウィズコロナで多様化する住宅ニーズと住まい方

ウィズコロナで多様化する住宅ニーズと住まい方

こんにちは。安心R住宅推進協議会の三津川 真紀です。

緊急事態宣言は解除されましたが、新型コロナウイルス(以下、「コロナ」)の感染防止に対する意識と相まって、都市部を中心に、個々人の住まい方に対する価値観は大きく変化しました。外出の自粛やテレワーク(在宅勤務)は依然として継続されている方も少なくないようです。先月のご相談事例にもあったように、人口密度が高く、感染リスクの高い都市部を離れ、二地域居住や地方移住を検討する方も出てくるなど、外部環境の変化が個人の生活スタイルに影響を与えています。特に今回のコロナでは、働き方が多様になったことで、住まい方の多様性も現実味を帯びてきたといったところでしょうか。そこで今回は、ウィズコロナを見据え、住まいに対するニーズや住まい方がどのように変化しているかについてみていきます。

 

ウィズコロナ・ポストコロナとは

 そもそもウィズコロナ、ポストコロナとは、それぞれどのような状態を指す言葉なのでしょうか。「ウィズコロナ時代」とはコロナと共存する時代、「ポストコロナ時代」とはコロナ以後の時代というイメージがありますね。補足しますと、ウィズコロナは、コロナとともに、コロナと一体としてという意味になりますから、人々がコロナに翻弄されているコロナ禍の状態から、ワクチンなど、コロナを封じ込める術を人々が身につけ、コロナをコントロールできるようになった状態を指します。一方、ポストコロナは、コロナの後、コロナ以後という意味ですが、同じ“後”を意味する言葉でもポストはアフターとはニュアンスが異なり、完全に次の時代に移行した状態を意味します。したがって、緊急事態宣言や各種ガイドラインによって一時的にコロナを封じ込めている状態ではなく、コロナウイルスが存在していることを前提として、感染拡大を防止する行動が人々の生活に根づいた状態を指します。
 つまり、いずれはウィズコロナ、ポストコロナの時代を迎えることになるわけですが、住まい選びというのは、住まい方(ライフスタイル)にしろ資金計画(ライフプラン)にしろ、長期の将来を見据えて行なうものですので、すでに人々の住宅ニーズはコロナによって変化しているのです。

 

若者を中心に地方移住への関心が高まる

 6月に内閣府が「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」の結果を公表しました。それによると、コロナによって、20代30代の若者を中心に地方移住への関心が高まっていることが分かります。年代別で最も関心が高かった20代を地域別に見てみると、大阪・名古屋圏では15.2%なのに対し、東京圏(東京都、埼⽟県、千葉県、神奈川県)では27.2%、東京23区では35.4%にものぼっています。つまり、東京23区内に住んでいる20代のうち、3分の1以上は地方移住に関心を寄せているということになります。

 この結果を裏づけるものとして、同調査では、コロナによって人々の生活や仕事に対する意識に変化が生じていることが確認されています。コロナ以前に比べると、仕事よりも生活を重視するようになったと答えた方が全体の半数にのぼるのです。年代別で見ると、ここでも20代がトップの61%、続いて30代が56%という結果になっています。

 そしてこれら、地方移住への関心やワークライフバランスの変化は、テレワーク(在宅勤務)の経験の有無によって左右されているようです。仕事よりも生活を重視するようになったと答えた方は、テレワークを経験していない人(34.4%)よりもテレワークを経験した人(64.2%)の方が約30ポイントも高かったのです。あわせて、地方移住への関心が高まっていると答えた方も、テレワークを経験していない人(10.0%)よりテレワークを経験した人(24.6%)の方が約15ポイントも高い結果でした。

 地方振興につながる地方移住や、働き方改革の一環としてのワークライフバランスの改善は、コロナ禍以前より積極的に推し進められてきましたが、特に収入面の減少などが懸念され、なかなか思うようには進んできませんでした。コロナによって半ば強制的にテレワークを経験した方は、場所を問わず仕事ができるイメージが持てるようになり、これまで地方移住やワークライフバランスを改善する上で懸念されていた点が解消されたことで、一気にこれらが現実的となったのだと思われます。
 またテレワークは基本的には通勤する必要がないことから、これまで人気の高かった職住接近という住宅ニーズは影を潜めることになります。最近では人口密集エリアを避けつつも、たまの通勤にも対応可能な首都圏近郊の物件の問い合わせも増えているようです。

 

働く場所の変化に伴う住宅ニーズの変化

 コロナで多様化したとされている住宅ニーズですが、住宅ニーズの変化に最も影響を与えたのはコロナではなく働く場所の変化です。コロナは働く場所を変化させたキッカケに過ぎません。コロナ禍以前の住まい選びは、共働き世帯の増加により若年層を中心に利便性(生活利便性や交通利便性)を重視する傾向にありました。ところが都市部を中心にテレワークが普及したことで、仕事や働く場所を中心に住む場所を決めていたものが、働く場所を問わずに仕事が出来るようになりました。その結果、住まい選びの基準が仕事から生活や家族にシフトしたのです。先に紹介した内閣府による調査でも、コロナ以前と比べて重要性を意識するようになったことは、仕事(21.9%)や社会とのつながり(39.3%)以上に家族(49.9%)であるという結果が出ています。残念ながらコロナによって低下した生活の満足度(特に生活の楽しさや社会とのつながり)を補う、新たな住宅ニーズが生まれているのかもしれません。

 

新たな住宅ニーズと住まい方

 かつて東日本大震災の影響を受けて、タワーマンションの人気が急落したことがありました。巨大地震の揺れはもちろん、甚大な津波被害や液状化によって、タワーマンションのイメージそのものが崩れ、特に湾岸部に立地する湾岸タワーマンションは震災から半年が過ぎるまで新規の供給がストップする事態に陥りました。社会経済基盤を揺るがす出来事は住宅市場にもダイレクトに影響が及びます。ところが、湾岸タワーマンションは、震災の翌年には再び販売戸数が増加傾向に転ずるのです。その理由は、震災以後に建てられたタワーマンションに、ハード・ソフト両面からの大幅な改善が図られたからです。“海沿いは危ない”という立地不安や建物の安全不安を軽減するため、耐震性など建物性能の向上や、防災センターによる監視体制や備蓄品の常備、非常電源の設置などの防災対策、住民参加型の防災訓練や勉強会などのリスクコミュニケーションに至るまで、さまざまな工夫が認められました。
 今般のコロナをキッカケとして生まれた住宅ニーズも、これまでとこれからの不安や無駄を解消するものです。豊かな自然に囲まれた田舎暮らしに興味はあれど、都会の仕事がネックとなっていた方も、テレワークの普及によって地方移住が可能になるかもしれません。都心の高い賃料のために働くのではなく、経済的にゆとりのある生活が送りたいと思っていた方も、通勤の頻度が低くなったことで郊外のマイホームの夢が叶うかもしれません。都会に暮らし続ける方は、空いたオフィスやホテルなどが新たな空間として活用されたり、最新のデジタル技術による未来の住まい方が体験できるかもしれません。このように新たな住宅ニーズと住まい方の誕生は、住まい選びの選択肢や可能性が広がることと同義です。選択肢や可能性が広がるためには、人々の不安や無駄を解消するキッカケや技術が必要です。

コロナをキッカケにリモートワークなどのICT技術が急速に一般化し、住環境面では、コロナ以前に圧倒的上位だった職住接近や交通の利便性のニーズが下がり、
・災害リスクが低い、低くはなくても対策がキチンと取られている
・病院や保育園、スーパーなど、周辺に生活施設が充実している
・近くに大きな公園があるなど、解放感のある立地
といったニーズが高まっています。
建物面では、賃料が高く、部屋が狭くても都心に住む優位性は低くなり、家の中でも密を避けたいという心理なのか、
・部屋数が多い
・仕事部屋などにできる個室がある
・家族が余裕をもって集まれる広いリビング
といったニーズが高まっています。
これら新たな住宅ニーズと住まい方は、不動産投資にも影響を与えることから、今後の変化に留意する必要があります。

 

最後に

 人口減少や少子高齢化が進む地方は、コロナをキッカケとした地方移住に対する関心の高まりに期待しています。しかしながら、その「住まい方の多様化」を実現する条件ともいえる「働き方の多様化」は、すべての地域や業種、雇用形態で実現できているわけではありません。内閣府による調査では、全国のテレワーク経験率は34.6%、東京圏で48.9%、東京23区にいたっては55.5%にのぼりますが、それでも半数近くはいまだ一度もテレワークを経験していないのです。
 第二波、第三波も不安視される中にあって、依然として先行きは不透明ですが、人々がこれからの生活を見直す機会を得た時、その生活の場である住まいにあらゆる多様性が実現する世界が、ウィズコロナの世界なのだろうと思います。コロナで失ったものは計り知れませんが、一方でその重要性を改めて意識することとなった「家族との時間」や「社会とのつながり」を満たせる選択の自由度が、誰しもの住まい選びで高まることを期待します。