あんしんを、あたらしく。~一般社団法人安心R住宅協議会~

2020.06.14

【コラム】新型コロナが不動産市場に与える影響と今後の見通し

新型コロナが不動産市場に与える影響と今後の見通し

こんにちは。安心R住宅推進協議会の三津川 真紀です。

先月25日に新型コロナウイルス(以下、「コロナ」)感染拡大に伴う緊急事態宣言は全面的に解除されました。しかしながら3月から続く影響は甚大で、不動産市場にも依然としてさまざまな影響を与えています。第二波、第三波も不安視される中、これから不動産市場はどうなるのか、今後の見通しを探っていきます。

 

不動産市場の現状

 不動産市場と一口にいっても、売買仲介、賃貸仲介、管理をはじめ、マンション分譲、建設、リフォームなど、その業種・業態はさまざまです。また、不動産市場の変化は社会経済環境の変化と密接に関係していますので、コロナの影響により景気が後退すれば、その影響も市場の広範囲にわたって及びます。
 しかしながら、当協議会が会員事業者および関係事業者にヒアリングをした感触では、現段階で不動産流通に関してはコロナの影響はそれほど認められていないようです。大きな影響を受けている業種・業態は流通ではなく、建設やリフォームなどで、コロナの影響により建材・設備の部材を調達できない等、工期の遅れが懸念されています。部材の原価高騰による建設費への影響を心配されている方もいらっしゃいますが、オリンピック景気で上昇傾向にあった建設費は落ち着きを取り戻しており、むしろコロナの感染拡大を防止するため、建設現場における三密を回避した結果、作業効率が低下したり、今後、第二波、第三波による作業中断などが生じることにより工期が長期化したりすれば、建設費の上昇要因となります。
 同様の意味では、不動産流通の現場も対面接客が中心であることから、三密回避の対策が必須となり、その結果、どれだけ生産性が低下するかということについては、今後、顕在化する影響として注意すべきでしょう。不動産市場全体に共通することとして、三密の機会が多い一方、IT化が遅れがちであるという特徴があります。したがって、当協議会の会員事業者である不動産流通事業者(仲介事業者)にあっても、コロナの影響を受けて、その感染防止対策としての非対面・非接触環境の推奨によるIT活用が急ぎ求められています。

 

不動産市場のこれから

緊急事態宣言が解除された後も依然として感染者は増え続けており、先月14日、政府は緊急事態措置を実施すべき区域が変更されたことに伴って、拡大防止の指針である「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を変更し、更なる感染防止対策を進めるよう、各事業者および関係団体に呼びかけました。これを受けて、先月20日、国土交通省は「不動産業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」を業界団体向けに通達しました。その内容は、三密対策の徹底として、接客応対を含めた自主的な安全衛生管理体制の確立を要請するものです。実際、それらの体制が確立されていない事業者は、今後集客面でも厳しくなることが予想されるため、安全・安心な取引の実現のためにも、非対面・非接触での業務が中心となりそうです。ホームページや店頭に対応方針を掲載、設置するほか、感染拡大防止策に対する理解を求めるなど、細かな対応が必要となり、事業者の負担は想像に難くありません。その結果、お客様対応やオーナー・入居者対応に滞りが出ると、問い合わせ数の減少やキャンセルの発生、クレームや退去数の増加にも影響してくるといった悪循環が懸念されます。

 

不動産取引への影響

 そこで、感染拡大防止の一助となる対策が、不動産業界のデジタルトランスフォーメーション(以下、「DX」)化です。ここでいうDXとは、IT技術の活用によって、業務そのものや企業活動の質を向上させることで、時間の効率化やコストの削減に取り組むことです。不動産流通事業者がDXを導入する代表的なシーンの一つに、営業・契約プロセスのIT(ICT)化やVR・ARの活用があります。

1.営業・契約プロセスのIT(ICT)化
WEB窓口の創設、チャットやビデオ通話によるオンライン接客、IT重説および電子書面交付の導入などが挙げられます。

2.VR・ARの活用
WEBやアプリ、体験ブースなどでの仮想現実(VR)・拡張現実(AR)の導入による、疑似内見などが挙げられます。

感染者が多く確認された大都市圏を中心に、不動産業界のDX化は今後加速することが見込まれます。既に各事業者では、ビデオ通話による接客や360度カメラによる内見の利用を強化したり、IT重説専用の契約センターを増設したりするなど、非対面・非接触対応に向けた対策が取られ始めています。

 同時に、コロナを機に不動産業界のDX化が加速することで、各事業者はこれらに対応できる社員の教育や採用も急務になります。DX化によりこれまでよりも限られた時間や人員で業務に取り組めるようになるとはいえ、既存の社員が各ITツールに慣れるまでには相応の時間を要すること、扱う情報に個人情報が多いことから高いセキュリティが要求されること、さらには1社だけがDX化に取り組んだとしても、不動産取引には多くの事業者が介入することから、連続性に欠いてしまうなど、課題もあります。コロナ対応を目的としたDXの導入が、これからの不動産取引をどう変えていくのかは、課題の解決とあわせて、注目されます。

 

不動産価格への影響

コロナが不動産価格に与える影響は、不動産の種別(アセットタイプ)によって異なります。

1.戸建住宅等の居住用不動産
 一般的な建売住宅の販売は意外にも好調のようです。コロナの影響により家で過ごす時間が増えたことで、「家での過ごし方」や「家の住まい方」など、「家」について考える機会が多くなったことが要因としてあります。働き方も在宅勤務(テレワーク)が中心となり、住まいに求める機能や用途も多様となったことから、リフォームや購入という決断を下す方も少なくないようです。
居住用不動産はもともと景気の動向に大きく左右されないことが魅力のディフェンシブアセットなので、金融機関も住宅ローンの貸出には積極的ですし、購入者もコロナの価格への影響をそれほど気にせず検討できるのでしょう。

2.アパート(共同住宅)等の投資用不動産
金融機関の投資用不動産への融資は、コロナ禍以前から消極的です。融資実行額は2018年9月期から急激に減少しました。この背景には「かぼちゃの馬車」事件に代表される不正融資問題がありました。その後も各金融機関の投資用不動産に対する融資姿勢は年々厳しくなっています。したがって投資用不動産については、コロナが直接的に与える影響のみならず、より総合的な判断が求められます。投資用不動産は売却をしてはじめて運用益が確定するため、出口(売却)が最も重要です。都心部に限れば、投資用不動産の価格は依然として高止まりが続いており、下落にはいたっておりませんが、金利が今以上に下がることは考えにくく、賃料もコロナ禍においてさらに上昇するとは考えにくいため、投資用不動産の価格は上限値に近い状態を維持しているのだろうと考えられます。とすれば、今後コロナが不動産の売却や価格トレンドにどのような影響を及ぼすかについて慎重に見守る必要があります。

 

新たな不動産ニーズの誕生

いまだ先行き不透明なコロナ禍にありながらも、アフターコロナの暮らしを見据えた不動産ニーズに欠かせないテーマは「暮らしやすさ」です。特にマンションでは、共働き世帯が珍しくないこともあって「子育て支援」をテーマにしたものが増えてきているようです。中でも、居住者が優先的に利用できる保育園を敷地内に設けているマンションは多く見られます。利用時間が夜の9時までだったり、保育園と同時に小児科クリニックも併設して病児・病後児保育にも対応していたりと、それぞれに特徴があります。これらのマンションに共通しているのは、「ストレスのない暮らし」です。保育園などの充実した共同施設をはじめ、専用部分も家事の動線に配慮されていたり、掃除がしやすい住設機器が採用されていたりするようです。

 また、シェアハウスにも新たなニーズに応じた変化が起きているようです。たとえば、「ひとり親家庭」と「単身高齢者」によるシェアがあります。ひとり親にとっては仕事で出ている間などに子どもを見てもらえますし、単身高齢者にとっては孤独感が解消されることから、双方にとってメリットの大きいシェアの形です。このようにそれぞれのニーズを互いに満たし合うシェアの形は、今後も新たな暮らしのあり方として登場すると思われます。

 

最後に

コロナによって不動産市場は、さまざまな配慮や改革を余儀なくされ、同時に期待されています。不動産、特に住宅は生活(暮らし)の基盤です。コロナがもたらすさまざまな影響に対応する不動産市場となることは、すなわち、私たち生活者にとっての「安全・安心な不動産取引」と新たな生活様式下における「暮らしやすさ」を実現することにつながります。
これからの不動産市場の変化が新たな生活(暮らし)のあり方に影響を与え、新たな生活(暮らし)のあり方がこれからの不動産市場に影響を与え、相互に発展していくものと期待します。