ホームスキャン®とは建物状況調査の概念を表した当協議会の造語で、「建物(ホーム)を細かく調べる(スキャンする)」という意味です。
ホームインスペクション(住宅診断)と同義になります。
建物に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が、「透明性」や「中立性」を確保する観点から、専門的および第三者的な立場で住宅の劣化状況についての検査を行ない、瑕疵(欠陥や不具合等)の有無、補修すべき箇所やその時期、おおよその費用などを見きわめ、安全・安心な取引と住生活の実現に寄与するアドバイスを行なうものです。
長らく不動産流通市場は「事業者本位」で成り立ってきたため、既存住宅の商取引においても消費者は常に不安や負担を強いられてきました。
そこには「顧客本位」の姿勢が存在せず、
・既存住宅は古くて・汚くて当たり前
・既存住宅は調べない・直さないが当たり前
・既存住宅は現状有姿売買(引渡時の現状で取引すること)が当たり前
・既存住宅の瑕疵(欠陥や不具合等)は売主が責任を負うのが当たり前
・既存住宅の価格は事業者の裁量によるのが当たり前
といった、たくさんの「当たり前」が慣習化されてきました。
そのため日本では既存住宅よりも新築住宅の方が圧倒的に売れており、2013年度に総務省が行なった住宅・土地統計調査によると既存住宅の流通量は全体の15%にも達していません。
人口が日本の約2.5倍ある米国と比べても、新築住宅の着工戸数が米国に近い水準で推移しているにも関わらず、既存住宅の流通戸数は米国の1/10以下とみられ、日本では既存住宅がいかに選ばれていないかが分かります。
また欧米では当たり前に行なわれているホームインスペクション(住宅診断)も、日本ではいまだ一般的ではありません。
そんな中、2018年4月に改正宅地建物取引業法が施行され、日本でもようやく不動産流通のあり方が見直されてきました。
2020年4月には改正民法(債権法)の施行も控えており、今後、不動産流通市場の透明性や中立性は加速度的に高まることが期待されます。
「買主」がホームスキャン®(広義の建物状況調査)を行なう必要性は、その結果が既存住宅を購入する際の判断材料となること、その結果にもとづいた必要な補修、設備とおおよその費用などを反映した資金計画が可能になることなどにあります。
既存住宅の商取引においては「売主が宅建業者の場合」と「売主が宅建業者以外(個人間売買)の場合」、いずれも売主が瑕疵担保責任を負うこととされていますが、万が一取引後にその住宅に瑕疵(欠陥や不具合等)が見つかった場合、多くは紛争に発展し、結果、売主・買主双方にとって多大な不利益をもたらします。
なぜなら瑕疵(欠陥や不具合等)が通常の注意では気がつかない「隠れた瑕疵」である場合が多く、発見が遅れがちだからです。
特に近年の欠陥住宅の特徴として、「見た目」にこだわり、見えない部分で手抜きをしてコスト調整を図っているものも少なくないことから、素人による判断は極めて難しいといえます。
こうした取引後のトラブルを未然に防ぐためにも、買主は自らの責任において、購入を検討している既存住宅の劣化状況をあらかじめ把握しておく必要があるのです。
そもそもホームスキャン®(広義の建物状況調査)は早期に「隠れた瑕疵」を発見し、現在時点あるいは将来時点に必要な補修、設備とおおよその費用などを反映したより適切な資金計画や維持保全計画を策定することを目的として行なわれます。
さらにホームスキャン®は既存住宅売買瑕疵保険に加入できるかどうかを判断する根拠にもなります(狭義の建物状況調査)
既存住宅売買瑕疵保険は既存住宅の検査と保証がセットになった保険制度で、万が一引き渡しを受けた建物の保険対象部分(構造耐力上主要な部分、雨水の侵入を防止する部分等)に瑕疵が見つかった場合は、その補修費用を保険でまかなうことができます。
ホームスキャン®(広義の建物状況調査)は、既存住宅が消費者の納得と信頼を得て安全・安心に取引されるための入口となるものなのです。
既存住宅を購入しようとする際、「状態」と「価格」は買主にとって一番の関心事です。
“より良い”ものを“より安く”買いたいというのは買主であれば当然の心理ではないでしょうか。
内閣府が行なった世論調査によれば、新築住宅と比べて既存住宅の方が良いと思う理由は、
1位:住みたい「場所」に住宅を購入するには、既存住宅の「価格」の方が手が届きやすいから(61.0%)
2位:既存住宅を購入後、時期をみて建替えやリフォームをする方が、「資金計画」などに無理がないから(29.7%)
となっており、実に9割の消費者が、既存住宅を選択する理由に「お金」を挙げています。
それでは既存住宅の「価格(査定価格)」はどのように算出されているのでしょうか。
通常、既存住宅の査定は、不動産流通事業者(宅建業者)が行なう場合がほとんどです。
不動産流通事業者は既存住宅の売却依頼を受けると、査定価格を算出するために、その住宅の状況について実際に現地にて調査し確認するとともに、売主から売却理由やリフォーム履歴、住まい勝手など、その住宅に関する情報をヒアリングします。
この時、周辺に既に取引が成立している類似の住宅があれば、その取引価格(売却価格)に現地調査の結果を加味して調整し、更にヒアリング内容や当該住宅固有の資産価値を考慮して算出します。
注意しなければならないのは、査定を行なう不動産流通事業者は「流通(売る・買う・運用する)のプロ」であって、「建築(造る・建てる)のプロ」ではないということです。
既存住宅は、建物の仕様や設計、売主の住まい方や住宅履歴情報が個々の住宅によってさまざまです。
個々に異なる状況を調査して適正な査定価格を導くことは、建物の知識に乏しい不動産流通事業者にとってはいささか無理があります。
日本でこれまでホームスキャン®(広義の建物状況調査)が当たり前に行なわれてこなかった要因は、不動産流通事業者が建築のプロではないことも一つといえるでしょう。
既存住宅の適正な評価と査定は、「建築のプロ」がその住宅の状況について隈なく調査し(ホームスキャン®)、その結果を公開するとともに、「流通のプロ」がその住宅の流通性(市場価値)を判断して最終的に導かれるものであり、この両者のアプローチが合わさってはじめて、透明で中立的な不動産流通市場が実現されます。
今後は法改正の後押しもあって、不動産流通市場への相互参入や事業提携は業種・業態の垣根を超えてますます加速するでしょう。
「流通の分かる建築のプロ」や「建築の分かる流通のプロ」が登場し、消費者にとって信頼できる事業者が増えることを期待します。
ホームスキャン®は建物状況調査のことですので、ホームスキャン®を行なっただけでは既存住宅の評価や査定価格は上がりません。
評価や査定価格を上げるには、ホームスキャン®(広義の建物状況調査)で明らかになった住宅の劣化状況についての改善を図り、あるいは付加価値をつけるなどして、より安心で良質な住宅として再生する必要があります。
ところが既存住宅の査定を行なう不動産流通事業者は「建築のプロ」ではないため、せっかくホームスキャン®(広義の建物状況調査)を行なっても再生できない場合が多いのです。
ホームスキャン®(広義の建物状況調査)も、本来は、建物に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が住宅の劣化状況についての検査を行ない、アドバイスをするものですので、建築士あるいはそれと同等以上の能力と実務経験をもつ者が行なうことが望ましいでしょう。
このことから、建築士をはじめとする「建築のプロ」と宅建業者をはじめとする「流通のプロ」が一体となって、既存住宅の調査(ホームスキャン®)、再生(リフォーム)、評価(査定)、流通(販売)を一貫して対応することが、既存住宅の資産価値を上げる近道なのかもしれません。
かねてより、米国では住宅投資額に見合った住宅資産額(住宅ストック額)が蓄積しているのに対し、日本では住宅投資額の累計を約500兆円も下回る額のストックしか積み上がっていないことが指摘されています。
一方、欧米の住宅と比べて日本の住宅は建物の寿命が1/4~1/7だといわれています。
建築の技術が劣っているのではなく、建物の維持管理に対する日本人の意識の低さが影響しているように思います。
建物の寿命を延ばすには、定期的なメンテナンスやリフォームの実施が不可欠です。
“既存住宅の適切な維持管理を通じて、安全・安心で快適な暮らしを実現するために”
当協議会の会員は、ホームスキャン®(広義の建物状況調査)の結果にもとづいた査定、維持管理やリフォームのプランの作成、保証やサービスの提案を徹底し、売主・買主双方に透明で中立的な取引をお約束します。