こんにちは。安心R住宅推進協議会の三津川 真紀です。
先日、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて、改正特措法(改正新型インフルエンザ対策特別措置法)が成立、施行されました。世界的な感染拡大を受け、日経平均株価も急落し、私たち生活者にも予想しえなかった影響が及びつつあります。そのような中で、最近特に多いご相談が“有事に備えた資金づくり”です。
今回は、老後の資金づくりとしてご質問の多い、「リバースモーゲージ」についてみていきたいと思います。
「リバースモーゲージ」とは、住宅という資産を担保に、そこに住み続けたまま融資を受けることができる、高齢者世帯向けのローンです。1月のコラムでも「老後資金2000万円不足問題」を取り上げましたが、人生100年時代に向けて、これまでは80歳を一区切りとして準備してきたライフプランを見直す必要性が出てきました。老後の生活資金を確保したいという不安を前に最近注目を集めているのが、この「リバースモーゲージ」です。
しかしながら、高齢者が自宅を担保に老後資金を借り入れるわけですから、メリットだけでなく、デメリットやリスクもしっかりと理解して利用することが大切です。
ここでは、リバースモーゲージの利用を検討する際の注意点について整理していきます。
はじめにリバースモーゲージは、公的機関である自治体や社会福祉協議会、半官半民機関である住宅金融支援機構、民間機関である銀行や信用金庫などが取り扱っていますが、どこのリバースモーゲージを利用するかによって、目的や内容が異なります。取り扱い機関の分類にしたがって整理すると、以下のような特徴があります。
公的機関である自治体や社会福祉協議会などが取り扱うリバースモーゲージです。代表的なものに、厚生労働省が全国の社会福祉協議会を通じて提供している「生活福祉資金(不動産担保型生活資金)」があります。
こちらは厚生労働省の貸付制度ですので、高齢者(65歳以上)が自宅を担保に生活費を借り入れることによって世帯の自立を支援する福祉制度の一環です。したがって利用できる高齢者世帯(貸付対象)は、個人住民税の非課税世帯あるいは均等割課税世帯程度の低所得世帯(生活保護受給世帯は除く)であることが条件です。また目的が世帯の自立支援ですので、資金使途は生活資金に限られ、対象物件はマンションを除く居住している戸建て(評価額が概ね1500万円以上)のみとなっています。
尚、生活保護受給世帯に対する「生活福祉資金(不動産担保型生活資金)」は、別途「要保護世帯向け」として設定されており、対象物件はマンションを含む、保証人は不要であるなど、条件面で多少の優遇があります。
半官半民機関である住宅金融支援機構、民間機関である銀行や信用金庫などが取り扱うリバースモーゲージをまとめて、金融機関が取り扱うリバースモーゲージとして分類します。これには、「民間金融機関が住宅金融支援機構と提携して提供するもの」や「金融機関独自で提供するもの」などがあります。
公的機関が取り扱うリバースモーゲージとは異なり、こちらは、現預金は十分にないものの、一定の不動産資産(自宅)は保有しており、かつ年金などの安定した収入がある比較的裕福な高齢者世帯が、さらに充実した老後を送るために、自宅のリフォーム資金や高齢者施設への入居資金、趣味や旅行に係る資金などに充てることを目的として利用されます。そのため利子負担が重めですが、その分、対象年齢が低く、融資限度額一括での受け取りが可能で、かつ保証人も不要です。
いずれの場合もリバースモーゲージは、居住している自宅を担保にお金を借りて、借入人が亡くなった際(あるいは融資期間が終了した際)に、その自宅を売却したお金で借入額(元金)を一括返済する、高齢者専用の貸付制度です。通常の住宅ローンは、一括で受け取った借入額を残高がなくなるまで月々返済しますが、リバースモーゲージは、月単位あるいは一括で受け取った借入額の残高を最後にまとめて返済するため、借入期間中は常に住宅資産価値の下落や金利の上昇リスクがつきまとい、ともすると長生きがリスクになることさえあります。
リバースモーゲージは、一度利用すれば、基本的には死ぬまで契約が続く商品です。そのため利用を検討する際は、商品のメリットとデメリットをしっかりと把握しましょう。
・毎月の支払いは利息のみのため、月々の返済額を抑えられます。
・自宅(建物および土地)を担保に、住み続けたまま老後資金の借入れができます。
・夫婦世帯で、一方の借入人が亡くなっても、配偶者が当該契約を引き継げます(原則)。
・元金の返済方法は、①借入人が亡くなった際に、相続人が当該自宅を売却して一括返済する ②借入人が亡くなった際に、相続人が現金で一括返済する ③借入人が存命であっても、融資期間内に繰り上げ返済する などから選択することができます。
・融資期間中に自宅(建物および土地)の資産価値が下落すれば、融資限度額が見直される可能性があります。
・貸付利子は年利3%前後で変動型が主流のため、融資期間中は金利変動リスクが伴います。
・融資期間は基本的には借入人が亡くなるまでの期間であるため、長生きをすればするほど、設定された融資限度額が不足する可能性があります。
・推定相続人の中から連帯保証人を選任する必要があります(原則)。
・資金使途が限定されている場合があります(住宅金融支援機構が取り扱うリバースモーゲージの資金使途は、住宅に関する、①借入人本人が居住する自宅の購入・建設資金 ②自宅のリフォーム資金 ③高齢者施設への入居資金 ④住宅ローンの借り換え資金 ⑤子世帯などが居住する住宅に係る資金 の5つの用途に限定されており、生活資金としては利用できません)。
・融資条件が設定されている場合があります(対象建物が戸建てであること、対象土地に借地権などが設定されていないこと、住宅ローンの残債がないこと、その他申込時の年齢や年収 など)。
公的機関が取り扱うリバースモーゲージや、半官半民機関である住宅金融支援機構が取り扱うリバースモーゲージとは異なり、民間機関である銀行や信用金庫などが取り扱うリバースモーゲージは、事業用資金や投資目的でなければ、資金使途を自由としているものが多いです。
ところが近年、リバースモーゲージに対するニーズや需要の増加に伴って、民間機関から新しいタイプのリバースモーゲージ型商品が出ています。「リバースモーゲージ型住宅ローン」や「賃料返済型リバースモーゲージ」です。
「リバースモーゲージ型住宅ローン」は、住宅金融支援機構が提供する住宅融資保険を活用した、自宅の購入・建設、自宅のリフォーム、住宅ローンの借り換えを目的とした住宅ローンです。2020年3月時点で取り扱っている金融機関は約60機関あるようですが、各機関によって利用条件などが異なりますので、確認が必要です。
「賃料返済型リバースモーゲージ」は、自宅の賃料債権を譲渡担保に資金を借り入れる方法です。自宅を担保にしたり、売却したりすることなく、老後の資金づくりが叶う画期的なローン商品ですが、こちらも一般的なリバースモーゲージとは利用条件が異なるため、確認が必要です。
このようにリバースモーゲージは、老後資金に不安がある高齢者はもちろん、より豊かな老後を送りたい高齢者にとって大変心強い商品です。しかしながら同時に、3大リスク(住宅資産価値の下落・金利の上昇・長生き)と呼ばれる落とし穴も潜んでいます。利用に際しては、「リバースモーゲージ」という商品にこだわるのではなく、商品を利用することによって実現したい目的を踏まえて、慎重に検討するようにしましょう。特に相続人がいる場合は、検討段階からきちんと相談し、同意を得ることが大切です。